「魔法の天使クリィミーマミ」森沢優,クリィミー



魔法の天使クリィミーマミ」は「魔法のプリンセスミンキーモモ」の人気を受けて、1981年開始で1983年当時も放送継続中の「うる星やつら」で一世を風靡していたスタジオぴえろに制作会社を変更して再スタートしたもの。

 なので「ぴえろ魔法少女シリーズ」と言うとミンキーモモは含まれない。

 ただしぴえろが制作していても「シュガシュガルーン」はぴえろ魔法少女に入れてもらえない…制作時期が飛んでるからかというのもあるが、主人公がそもそも魔女というのがぴえろ魔法少女シリーズの文法ではないというのもあるだろう。

 魔法少女という呼び方は放送当時はなくて、魔女っ子と呼ばれていたが、実際は魔女(魔法を使う一族)ではなく魔法を使う少女であることによる違和感から、総称が「魔法少女」というところに落ち着いたのかと思う。


 「うる星やつら」の高田明美がキャラクタデザイン担当し、原作付きでないオリジナルキャラで実力を発揮したのが本作となる。

 また高田明美パステルで描くフンワリとしたイメージイラストは、しっかりとした線と塗りで描かれた従来のアニメイラストと一線を画すオシャレな印象を与えた。


参考:「うる星やつら」ラムについての考察


 物語は「未知との遭遇」1977を思わせるスペクタクルシーンで幕を開け、フェザースターの船から1年限定で魔法を授かり、お目付役的に猫っぽい生き物ネガとポジがついてくる。

 当初は半年の予定だったが人気が出たため放送期間が1年に延長され、放映終了時と魔法がなくなる日付がシンクロして、リアルタイム性の高い内容となった。


 本作は魔女っ子ものの新スタンダードを確立し、女児向けアニメにクリィーミーマミ以前・以後と分けられるほどの影響を与えた。

 ちなみに、「魔法少女まどか☆マギカ」で黄色の先輩魔法少女の名前にマミって付けてるのは、どー考えてもクリィミーマミへのオマージュだと思うんだが。

 なおクリィミーマミが「エスパー魔美」のオマージュかどうかは微妙。


アイドルものとして


 アニメでアイドルものというと「さすらいの太陽」1971が嚆矢だが、スポ根ものの芸能界版という趣だった。

 その後、「ピンク・レディー物語 栄光の天使たち」1978という実録ものが制作されたりもしたが、もう一つ定着するには至らなかった。

 そしてクリィミーマミの前年の「超時空要塞マクロス」1982がロボットものの中にアイドルものを取り込み、クリィミーマミ放映直前まで放映していた。

 当時としてクリィミーマミは「マクロスミンキーモモが合体したアニメ」という感覚である。


 新人を声優と歌手として起用するのはマクロスと同様の手法で、正直下手なのだが、だんだん下手なのではなく優とマミはああいう喋りかたをするキャラなんだ、と思えてくる。

 ほとんどこれだけしかアニメ出演作はないので、主役の太田貴子はもしかしたら上手かったんじゃないか、とか思っちゃう位だ。


 なお、本作では同じ事務所の綾瀬めぐみ以外の芸能人がほとんど登場せず、そもそもマミに芸能界でトップに立とうとかいう意思も全くなく、本作での芸能界はこじんまりした印象となっている。

 逆に事務所やテレビ局の裏方などは丹念に描かれ、魔法ものに関わらず妙なリアリティを醸し出している。


現実のアイドルとアニメのアイドル


 その後「アイドル伝説えり子」1989のように、実在のアイドルを主役に据えるアニメは作られるが、アニメ的にもアイドル的にも大ヒットはない。

 近年で実写アイドル「しゅごキャラエッグ!」と融合を図ろうとした「しゅごキャラパーティー!」2009は見事に滑って、好評だったシリーズをグダグダにして閉じることとなってしまった。

 そもそも「しゅごキャラ」自体はアイドルキャラは出るものの、アイドルものではないが。

 本作の太田貴子もそうだが、アニメがヒットしてしまうとアニメの印象から抜け出すのがまず無理だったりするのもリスクだ。


 結局、アニメのアイドルとしても実在のアイドルを売り出すという手法は、さほど旨味がないようだ。

 アニメに絡めたアイドルの売り出しかたにしても、声優するとか、OPやEDの歌を担当するとか、普通に芸能活動するのが間違いない、という所で落ち着いている。

 例外的に「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」2009が、教育番組ということもあって、アイドルとして売り出そうという色気が見えなかったことが功を奏したか、実写パート+アニメの番組として成功した。

 また、アニメキャラとして売り出しはしないが、アニメ的コスチュームと色で覚えてもらうという戦略が成功した「ももいろクローバーZ」が2013年現在、一世を風靡している。


AKB0048」2012は、実在のアイドルAKB48をベースとしたアニメにも関わらず、作品内容は完全にSF作品となっていたりするのが象徴的だ。

 これならネームバリューや楽曲を活用しつつも、現実との整合性はほとんど取る必要がない。

バーチャルアイドルの定着


 1980〜1990年代も漫画原作を中心としてアイドルものアニメは作られ続けるが、なかなかムーブメントは起きなかった。

 2000年代を迎え、ゲームの「オシャレ魔女♥ラブandベリー」2004や「THE IDOLM@STER」2005を経て、アイドルアニメは現実のアイドルとは別のものとして復権する。

 具体的には、店舗に設置されるゲーム発信でアニメ化するというメディアミックス展開の「リルぷりっ」2010、「THE IDOLM@STER(アニメ)」2011、「プリティーリズム」2011や「アイカツ! -アイドルカツドウ!-」2012など(表記は全てアニメ化年)がある。

 このようにゲームからはじめるアイドルものの定石ができていると言っていいだろう。


 アイドルが主題でない「プリキュア」シリーズでも、ちょくちょく登場人物中にアイドルやモデルのキャラが登場するし、前述の「マクロス」の新作なども継続して作られ、多くのアニメの中でアイドルは地位を保っている。

 また、アイドルとして作られた訳ではないが、「初音ミク」2007も事実上のアイドルとして、アマチュアによるミュージッククリップアニメに最も登場するキャラクタとして2013年現在も君臨している。


参考:初音ミクについての考察


 そんな流れの中、本作「クリィミーマミ」も30周年を迎え、バーチャルアイドルとして再展開が始まろうとしている。

 また、NHKの連続ドラマ「あまちゃん」2013で、「クリィミーマミ」時代のアイドルが現代のアイドルの母親世代として登場することでリバイバルブームを引き起こしている。

 30年以上の厚みをもった「クリィミーマミ」は、古くて新しいアイドルとして、今後の動きが注目される。

魔法ものとして


 シリーズを通して、魔法はほとんど優がマミに変身するためにしか使われていない。

 要するに、ミンキーモモが魔法で大人のプロフェッショナル(職業婦人)に変身することの限定版だ。

 物語としては同じ職業に変身する事で、舞台や登場人物が限定され、物語としては深みが出た。

 各話の面白みも、芸能界、恋愛、ファンタジックな登場人物や現象など、主人公の魔法以外の部分で作られている。


 クリィミーマミはそれまでの魔女っ子ものの要素を踏襲していて、この時点でもはや様式化している。

 変身アイテムとして魔法のコンパクトとそこから飛び出すクリィミーステッキ、更には変身呪文「パンプルピンプルパムポップンピンプルパンプルパムポップン」、お供の小動物(前述のネガとポジ)といった具合である。

 そのこともあって、それぞれの要素の重要度も魔法そのもの同様に軽い。

 の割に変身がバンクではなく、全く使い回しがない訳ではないが、毎回違う演出で変身するのが面白い。


 主人公である優は、思いを寄せている俊夫が変身後の姿であるマミに夢中になってしまうこともあって、当初から魔法を邪魔者っぽく思っていたが、最終的にも魔法はいらないと結論づけている。

 また、マミへの変身以外は何ができるのか具体性に乏しく、ピンチになった時に魔法でどうにかなるのかならないのか全然予想がつかない。

 番組中盤でパワーアップが図られ、ルミナスターというタンバリン状の変身アイテムが追加され、物体に魔法をかけられるようになった、というがそもそも今まではどういう制限があったのかよく分からない。

 更に、魔法がコンパクトのディスプレイ部分に表示されるが、ネガとポジを含め、誰も読めないので新たな魔法が使えないときている。

 とまぁ、そんな感じで魔法ものとしては、かなり魔法の扱いがぞんざいである。


 しかしながら、本来人間は全てフェザースターの記憶を持っており、主人公の優のようにフェザースターの船を見ることができる子供もいるとか、周辺設定はかなりしっかり作られている。

 つまり、魔法を使う主人公をフィーチャーしているのではなく、実は世の中には気付かないだけで魔法が溢れているのだ、ということが主題となっているのだ。

 特に32話のバレンタインのエピソードは、この世界観が分かりやすく表現されている。


話の幅の広さ


 1話ではローラースティックという「ローラースケートを引っ張っる芝刈り機」みたいなガジェットが登場して、前述のSF的演出とともに、SF系の番組かと思わせる。

 しかし話は、妖精や妖怪が出たり幽霊からはたまた怪獣まで登場し、ファンタジックな雰囲気に彩られる。

 と思いきや、業界の確執やら収録の時間合わせやら、なんだか世知辛い話も多く割り込む。

 さらに少女漫画的恋愛要素どっぷりになって、そういう話かと油断していたら、タイムスリップものとか挟んでくる。

 という何でもアリな作りであり、これくらい振れ幅のある作品もなかなかない。

 魔法少女というお題を使って、やりたい要素を全部ぶち込んだという様相だ。


「変身後の自分が恋のライバル」というのは、男性ヒーローでも良くみられるパターン


キャラクタデザイン

髪型


 マミは今見ても凄いアホ毛だ。当時アホ毛ではなくアンテナとか触角とか呼ばれてたように思うが、それにしても常軌を逸した出っ張りっぷりである。

 これだけのアホ毛を備えていながら、ほとんど感情表現としては使われていない。

 また、ふんわりと広がった髪の毛は立体としてどうなっているんだかよく分からない不思議な髪だ。

 ミンキーモモをアレンジしてフンワリ感や立体感を付けようと試行錯誤した結果かと思われるが、作中でも描き方は安定せず、結局なんだかよく分からない不思議な髪型となっている。

 なお、マミの髪型はポニーテールにしたり、ウェーブを付けたり、ちょこちょこ変わっている。


 優の髪はおかっぱショートカットで、特徴的なのはクラゲを被ったような独特のハイライトだ。

 この作品中でも他のキャラでは使われていないのがまた独特である。

八重歯


 パロディ作品では、アホな顔をしたマミや優は大抵八重歯(もしくは欠けた歯)がつきものだったように思う。

 とにかくパロディものだと判で押したように八重歯がついていた記憶がある。


 しかし本編では基本的には八重歯はなく、ギャグシーンでもそう多くは出てなかった。

 記憶補正とは恐ろしいもので、後づけのパロディのせいで、マミや優には八重歯がついてないといけないような気になる。

 多くの(男性)アニメファンは同じ印象を持っていると思うが、どうだろうか(投げっぱなし)

衣装


 当時は漫画原作のアニメ「CAT'S EYE キャッツ・アイ」1983も放映されており、レオタードが最新の「お色気」ファッションだった。

 映画「フラッシュダンス」1983が流行ったこともあり、アニメに限らず、実写ドラマでもやたらレオタードが出ていたような印象がある。

 そのあたりを踏襲してマミもレオタードにフリルをあしらい、首には同じくフリル付きのチョーカーといった、エロカワイイ(当時この言い回しはない)衣装となっている。

 今見ると、少々シンプルすぎる気もするが。

 流石にアイドルだけあって、このスタンダードな衣装以外にもかなりのバリエーションがある。

 個人的にはホルターネックのピンクの衣装が好き、と同時に頭の星がゆらゆらするカチューシャ(ルミナウォーク)はダサイと思ったものだ。


 対して変身前の優は、1年を通してほぼ同じ服で通している。

 当時流行していたというか、流行を先取りした感のあるフード付きの上着の下にTシャツを重ね着している。これが首回りにセーラー服的意匠を作っている。

 このフードが妙に長いのは、魔法使いの帽子を意識したのだろうか?

 下は黄色いフレアのやたら短いスカートで、作中ではかなり頻繁にパンツが画面に映り、俊夫から注意されても笑ってごまかすあたりで子供っぽさが演出されていた。

 靴下は長さが左右比対称で右にだけリボンがあるという、オシャレなデザインだ。

 全体として、ビビットな色使いながらもうるさすぎず、今見ても非常に完成度の高い女児服ではないかと思う。

 かなりの率でフード部分にネガとポジが入っていて、肩越しに顔をのぞかせるのも可愛い。


 主人公の家が当時大流行していたクレープ屋である事も含め、現実の流行を意識した結構オシャレなアニメであったのは間違いない。

オタク的にはマミはスルー


 女子には普通にマミが憧れの対象として人気だったように思うし、実際にマミに憧れて芸能界入りした、というような話もちょくちょく聞く。

 ただ、萌え(男性オタク)的には完全に小学生の優の方が人気があった。

 当時の感覚としてても、髪が紫でアイシャドウと口紅をつけたマミは、可愛いけど若干ケバい印象だったように思う。


 一例では、同人誌で「PONY METAL U-GAIM」という森沢優をロボ化した設定集が作られ、それがガレージキット化されるわ、プロのクリエーターを巻き込みプロモーションアニメまで作られるわという事態となった。

 当時はラムロイドとかMS少女とか、美少女とロボを行ったり来たりするのが流行っており、そもそも人気があった優が、ヘルメットっぽい頭からの連想でロボット化されるのは必然であったとも言える。

 ちなみに「L-GAIM」のもじりタイトルであるが、L-GAIM感はあまり強くない。頭部のセンサー(?)が開くと猫耳風になるとか、実にもうオタクが喜ぶデザインとなっている。


参考:pony metal U-GAIM - YouTube


 「うる星やつら」や「ミンキーモモ」に比べると、アニメや特撮パロディ的なものは少なかったが、制作者も若くアニメファンと近い感覚て作られていたのは間違いない。

 その頃のアニメに特徴的なモブシーンに他のアニメや特撮のキャラが登場することもあったり、どー見てもアニメ監督の押井守そっくりのキャラが順レギュラーで出てたりする内輪受けもあった。

 本編31話には怪獣(ほぼゴジラ)の着ぐるみ着たギャグ頭身の優という、可愛さ的破壊力抜群でオタクが放っておかない絵も登場している。


 当時は世間的には「小学生が全裸だろうがしょせんガキ、エロではない」的な雰囲気もまだまだあったが、50話の森沢優の妙に気合いの入った入浴シーンの作画に、世のオタクは騒然となったものだった。

 今だと逆に世間が意識し過ぎて、TV作品ではあそこまでは描きづらい空気で、2013年現在のアニメでは泡は勿論、湯気や光が大活躍している。

 ロリコンブームが盛り上がりつつも、1989の所謂「宮崎事件」発覚以前で世間の認識はゆるい、という時期ならではの状況と言えるだろう。


 劇中ではみどり君という太ったキャラクタが「優ちゃん可愛い!」を連発し、ある種オタクの代弁者となっていた。

 そもそも優は物語の最初から最後まで俊夫一筋なので、みどり君が報われる筈がないのだが、ラストのラストで優とは別の美少女とカップルになっている絵が挿入され、なんだかオタクも胸を撫で下ろすのであったりなかったり。

OVA


 1984年にはOVAによる追加エピソードの発売という、世界初の試みがなされた(OVAでははなく映画では既にある)

 追加エピソードだけでは不安視されたのか、総集編+追加エピソード「永遠のワンスモア」という形で作られており、試行錯誤の時代だった。

 このOVAが好評だったので更に、続編「ロング・グッドバイ」が作られ、ミュージッククリップの形でも2作リリースされている。


 これらの成功が本編+OVAでの追加エピソードという形を定着させる一因となり、旧作の寿命延長となってファンを喜ばせている。

 とは言え、TVで全然完結してなくて映画やOVAで最終回が作られるような作品もチラホラ見かける現状は、なんともむずがゆい。

 TVが斜陽化しネット視聴が広がった今、アニメでちゃんと金を稼げるシステムが確立されるまでの試行錯誤はまだ続いている。

まとめ


 クリィミーマミは萌え的文脈下ではミンキーモモの影響下にある作品及びキャラクタであり、それほどのターニングポイントではない。

 ただし、隣接領域であるというか本来の領域である女児向けアニメ作品としては、間違いなくターニングポイントに位置している。

 特にアイドルものと恋愛物のアニメという文脈からは、キー作品として外せないものである。