「機動戦士ガンダム」セイラ・マス



 萌えキャラを取り上げてとことん語るこのシリーズ。今回はセイラ・マスを取り上げる。

機動戦士ガンダム1979はリアルロボットと呼ばれるタイプの始祖となったロボットアニメだ。


 なお、今まで取り上げたキャラのラインナップは萌えキャラ一覧を見てほしい。


 地球からの独立を求めて戦争をしかけたジオン公国が、いままで戦場となっていなかった宇宙コロニーサイド7への侵攻を開始した。

 そこでセイラは戦闘に巻き込まれ戦艦ホワイトベースに避難する。そして同じく戦闘に巻き込まれた少年少女達とともに、宇宙コロニーから地球そしてまた宇宙へと後に一年戦争と呼ばれた戦場を転戦していく。


 セイラ・マスは、ホワイトベースのクルーとして最初は医師を目指していることから救護を担当し、すぐにオペレータとなり、後半にはパイロットとなる。

 そして、彼女こそはジオン公国の設立者(当時は共和国)であったジオン・ズム・ダイクンの実子であり、真の名をアルテイシア・ソム・ダイクンという。

 さらには、ジオン公国の天才的指揮官にしてエースパイロットであるシャア・アズナブル(実名キャスバル・レム・ダイクン)の妹でもある。


 キャラクタデザインは安彦良和。以前取り上げた「ダーティペア」ケイ・ユリのキャラデザインも行なっている、萌えの歴史上けっして外すことのできないキャラクタデザイナだ。


機動戦士ガンダム - Wikipediaセイラ・マス - Wikipedia

機動戦士ガンダム公式Web


外見要素

青い瞳の「金髪さん」


 金髪碧眼はこのときまだ「お姫様」の記号として成立していた。「アルプスの少女 ハイジ」クララ・ゼーゼマンが代表的なもので、ガンダムシリーズでは「ターンエーガンダム」ディアナ・ソレル、キエル・ハイムにも見られる。こういう「コテコテの記号」を使っておいて、派手に裏切るのが富野流というところだ。


 オペレータの時にさんざ「あなたならできるわ」と言っているセイラも、後に自分自身がガンダムGアーマーに乗ることになる。

 さんざひとにやらせておいて、そういう自分はできるのかというと、数度の出撃でできるようになってしまうのだから恐ろしい。操縦免許の一つや二つもっているとしても、軍用機を乗りこなすのは相当な才能の持ち主といえる。

 まず、セイラはその容姿に反して「守られる姫」というパターンを裏切る。


マッシュルームカット


 ショートカットで大きく扇状に広がったセイラの髪型は、日本ではおかっぱ頭ともいわれる市松人形によく見られる髪型で、特に切りそろえたサイド部分が一房前に出るようなカットは、和風の姫の印象がある。

 と同時に、オシャレな西洋の成人女性の髪型としてのマッシュルームカットでもある。前髪を額にかけずに分けているため、子供っぽい雰囲気から逃れている。

 そしてアニメのキャラクタデザインらしく、かなりボリュームは大きい。


 ハマーン・カーンも似た髪型をしていて、どうもあのキノコ頭は、ジオンの上流階級では珍しくない髪型だと思われる。

 ハマーンはシャアの恋人だった過去を持つ。髪型的に大きな違いは、ハマーンは額に前髪がかかっているが、セイラは真ん中で分けている。

 髪型そのものは「魔法のプリンセス ミンキーモモ」を代表とし「ガルフォースキャティなどに見られる可愛い系キャラの髪型ではあるが、セイラ以後は「機動戦士Zガンダムハマーン・カーン、「まじかる☆タルるート」伊知川累、「トップをねらえ!!」ユングフロイトといった、ちょっと斜に構えたキャラの髪型としても使われるようになった。


軍服


 連邦軍の制服は裾が長く、ミニスカートのワンピースのようなデザインになっている。そして下には白いタイツを履く。軍服としてのリアリティを損なわない程度にフェミニンな名デザインだ。

 同様なデザインは「新世紀エヴァンゲリオン」のネルフの制服に見ることができる。


 フラウ・ボゥが連邦の制服をアレンジしてスカーフを巻いたり、タイツを履かずに生足ミニスカートにしてみたりしていたのに比べ、セイラは素のまま軍服を着ている。色がピンクなのは自分で選んだのか女性下士官に共通なのかは定かではないが、凛々しいというより可愛い印象だ。

 兄のシャアがモビルスーツをすぐピンクに塗っちゃうのを見ると、ピンク好きなのはジオンの血なのかもしれない。…まぁミライもフラウもピンクなんだけどね。


 ファーストガンダムのキャラクタの中で一番軍服萌えを誘発するキャラクタは、セイラではなくマチルダであることに異論はないだろう。ジオンでいけばキシリア様がダントツでSっぽくてステキだが、彼女の服は特注品なので軍服の画一化されたデザイン故の制服萌え要素はない。

 軍服萌えという点で行けばセイラはメガネの技術士官シムス中尉にだって負けている。ララァの服を咎めるシムスは心の中で「ああいうひらひら着たいけど、私なんかに可愛いの似合わないのよ!」とか思っているに違いない。そこが可愛い!可愛いよシムス。自分の可愛いモビルアーマーの実戦データを集めたくて、ブラウ・ブロに同乗して、挙げ句の果てにはガンダムにやられて散ってしまうのだ。そこが可愛い!可愛いよシムス・アル・バハロフ中尉!

宇宙戦士バルディオス」ローザ・アフロディア、「Gガンダム」ナスターシャ・ザビコフ、「ガンダム00カティ・マネキン、軍服萌えはメガネと相性がいい。断然軍服萌え度数はセイラよりシムスだ!

 名前順だとシムスとシャリア・ブルでシャアを挟むよ、オールレンジ攻撃だよ、兄さんたじたじだよ!「この機体を見たからには、死んでもらう」よ!


オペレータ


 さてシムス萌えの話はこのへんにしておいて、セイラの軍服の場合は軍人の中でも主にオペレータとしての萌えを担当している。かわいい女の子に「あなたならできる」とか「あなたしかできない」とか言われるというのは、物語の上(でなくとも)では命を賭けるに値する報酬なのだ。

 特にセイラの場合はカイに「おだてのセイラさん」と言われるぐらいパイロットを鼓舞するのが上手い。恐るべきプリンセスブレッシング効果だ。

 オペレータに可愛い女の子を配置するというのは、アニメでは「宇宙戦艦ヤマト」森雪が嚆矢だろう。それはアニメの定番となる。看護要員を兼任していることも同じで、確かに序盤はセイラも森雪からの流れに乗ったキャラだった。


 通信士の時はインカムが髪にカチューシャ的な絵を作り出している。「マジンガーZ」弓さやかを出すまでもなく、このころカチューシャはアニメヒロインのマークと言っても良いぐらいで、セイラが本作のヒロインであるということの証明ともなっている。

 なお、カチューシャは「不思議の国のアリス」アリスがつけたことからアリスバンドと呼ばれることもある、萌えキャラの記号の定番である。

 悲しいことにフラウがインカムをつけた後から、コミュニケーションはニュータイプ同士がテレパシーを使って行なうフェーズに移行していき、ララァがヒロインとなる。


参考:「不思議の国のアリス」アリス - 鳶嶋工房ゲームザッキ


 通信士として登場する場合、セイラはかなりの頻度でモビルスーツのコックピットの四角いディスプレイにバストアップで登場する。

 ゲームソフトであるエニックス「地球戦士ライーザ」では、セイラが映ったようにコックピットのディスプレイとして顔が表示される。表示される顔は単なる穴埋めのグラフィックではなく表情も変わり、劇的にゲーム内の会話イメージを豊かにした。そして「ウイングマン2」ではコクッピットとは無関係に会話の横に顔が表示され、画面下部に顔グラフィックと台詞が表示されるというパターンを確立した。

 ガンダム後半はディスプレイにキャラクタが表示されるという描写は少なくなる、つまり前半でオペレータ担当だったセイラ専用のギミックであったといっても過言ではない。

 現在、ゲームでの会話表現で日本と他の国のものを比べた際に、海外では顔グラは体力表示やユニットのマーク的に使われても会話で使われることは少ない。対して日本では会話表現のスタンダードだ。漫画の影響も強いだろうが、一方にはセイラ個人の影響があったと思われる。すごいぜセイラさん。


パイロットスーツ


 第16話「セイラ出撃」でセイラがガンダムで出撃した際はランバ・ラルの部隊に苦戦を強いられ、ガンキャノンで出撃したアムロがこれを助ける。これはマジンガーZ第52話で、マジンガーZに弓さやかが乗って出撃してピンチに陥り,兜がアフロダイAで助けにくる話の焼き直しではあるが、その後にセイラはGファイター(コアブースター)の正式なパイロットとなり、最終的にはカイやハヤトを差し置いてアムロに次ぐ戦果を挙げている。


 Gアーマーに搭乗するセイラはノーマルスーツ(パイロットスーツ)を着る。このノーマルスーツは「宇宙戦艦ヤマト」森雪の宇宙服に比べると、体へのフィット感が低く、股間に向けての矢印は森雪のスーツデザインに比べるとその角度も浅くセクシー度はかなり低い。


 衣装のセクシー度はイマイチとはいえ、合体要員ではない単独の女性ロボットパイロットとなることで、セイラは森雪のエピゴーネンではない新しいヒロインの形となった。

 単独のパイロットとして主人公に並ぶ、あるいは凌駕する能力を発揮する女性は、その後「装甲騎兵ボトムズ」フィアナや「新世紀エヴァンゲリオン綾波レイをはじめ数多く出現するが、セイラがターニングポイントであったことはまちがいない。


トップをねらえ!」タカヤ・ノリコ、「機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争」クリスチーナ・マッケンジー、「機動警察パトレイバー」泉野明、「アイドルマスター XENOGLOSSIA天海春香、ちょっと毛色の変わったところでは「幻夢戦記レダ」朝霧陽子、「卒業 Graduation 聖羅V(ヴィクトリー)」高城・荒井・志村・加藤・中本、「魔法騎士レイアース」獅堂光。これらの一人で主役ロボに乗る少女たちは、セイラの活躍あってのものだ。


その他の服


 日光浴で見せた緑ワンピース+レイバン(っぽい)サングラス、ホワイトベースに乗るまでのコート姿なども、お嬢様な雰囲気。

 森雪が看護服を着たのに対し、セイラは看護役もこなすものの看護服ではない…医師の卵という設定が、劇としてもそうだが、コスチュームに生かされなかったのが残念至極。


内面要素

お姫様


 セイラは「〜よろし?」などのお嬢様言葉を使う(初めてセイラとGアーマーで出撃するアムロがこの語尾を使うのがちょっとお茶目だ)

 言葉の端々に育ちの良さを感じさせる。悪い言い方をすると「お高くとまっている」のだが、そこがセイラのツン的魅力だろう。劇中デレ成分は殆どなく、大好きなキャスバル兄さんに対してすら「兄は鬼子です」とツン攻撃。


 ジオンの創始者であるジオン・ズム・ダイクンの娘、アルテイシア・ソム・ダイクンこそセイラ、貴族っぽいジオン公国のイメージを考えれば、正真正銘の姫と言っていい。

 名前は小説「小公女」セイラ・クルーからの引用だろう。偽名すらも皇女(プリンセス)であることを示している(戦闘機の晴嵐が元ネタだとか、セーラー服からだとかの説もある)

 セイラはジオンの臣下でありランバ・ラルの父であるジンバ・ラルと共に地球に亡命後、彼の元で偽名で育てられる…ん、ランバ・ラルとセイラって義兄妹?

 直接関係ないが「私は4歳のキャスバル坊やと遊んでやったことがあるのだよ」というキシリア様の台詞が異常にエロいと思う。


 セイラは艦長であるブライトを含むホワイトベースの男たちから、同年代にも関わらず「さん」づけで呼ばれる。特に出自を明らかにせずともにじみ出る高貴なオーラに気圧されて、敬称をつけずにはいられないのだろう。

 こちらもお嬢様のミライはセイラと普通にコミュニケーションを取っているのがまた、男どもの情けないところを強調する。だいたい出自不詳のセイラに対してさん付けするのに、ミライは明らかにヤシマ家のお嬢様なのに呼び捨てにするブライトはどうよ。

 ちなみにマチルダ・アジャンも「マチルダさん」と呼ばれるが、こちらは階級も年も上なので当たり前ではある。


 そのお姫様っぷりは、歴戦の勇者であるランバ・ラルが思わず発した「姫さま!」に返した言葉「アルテイシアと知って何故銃を向ける!」という言葉に象徴される。

 また、兄のキャスバル(シャア)から送られた金塊そのものには何の感動もしないということでとどめを刺す。金塊だよ!喜べよ!、でも姫にとっては金とかそのへんに転がっているものなので、あっさりホワイトベースのみんなで分けて、と差し出しちゃう。当時は「金塊だよ!金塊!こんな危ない船降りて、テキサスコロニーでホテル住まいでもしろよ!」とか思ったものだ。


 ちなみにガンダムはセイラの他にミライ・ヤシマイセリナエッシェンバッハ、そしてキシリア・ザビミネバ・ザビが登場する、やけにお嬢様密度の高いアニメだった。個人的にはハモン・ラル(あるいはクラウレ・ハモン)もお嬢様だと睨んでいる。


 メカが主役の未来の物語に姫という童話的で古典的な役割が与えられたという意味では「スターウォーズ」レイア・オーガナ姫がいる。

 結局物語はいつの時代のどんな設定であろうと、姫を欲しているのだ。


参考:姫・お嬢様 - 鳶嶋工房ゲームザッキ

幼女


 なんどか回想シーンで小さな頃のセイラが出たこともあったが、意外にこのシーンの印象は薄い。萌えキャラの幼女時代と言えば、ラム、クラリス綾波、どのキャラでも印象的なものだ。

 回想シーンの印象が薄いのは、あまりに世界名作劇場的で見慣れたシーンだったからか、キャスバル兄さん(たぶん)がはしゃぎ過ぎているのが気になってしまったからか、声が大人っぽくて萎えたのかは分からない。同じ声優(井上瑤)が声を当てた幼女キッカに、声がかぶらないようにした結果のあの声だったのだろう。


 セイラは萌えキャラのパターンとしては珍しく、幼少期のシーンが存在するにもかかわらず、全くそのシーンの人気がない、と言っても過言ではない。

 セイラが妹キャラであると同時に、性格的には「お姉さんキャラ」であったことが原因のひとつかと思われるが、富野監督が「OVERMAN キングゲイナー」アナ姫の可愛らしさを、セイラで発揮できなかったのは残念だ。

ニュータイプ


 実のところ単なる予感を越えるニュータイプ描写は、劇中ではセイラよりミライの方がはっきりしているし、かなり初期からミライにはニュータイプ的言動が見られる。

 しかし、兄であるシャアの存在があることもあり、印象としてはセイラの方が強い。

 また父ジオンが人類の変革(ニュータイプの存在)を確信するに至ったのは、息子と娘の持つ特異な能力によると見てまちがいないだろう。


 ニュータイプ能力のあるヒロインとしては、ララァ・スンの能力が突出しており、セイラは「そう言えばニュータイプっぽいところもあったな」程度と言える。

 とはいえセイラの神秘性や特別感を強化するために、姫の付加属性としてメジャーな巫女の属性の替わりとして、ニュータイプという属性は有効に働いている。



 セイラはガンダムの超人気キャラ「シャア・アズナブル」の妹である。

 序盤、ジオン兵(つまりシャア)に銃を向けるセイラに対し、シャアは「アルテイシアにしては強すぎる」と漏らす。シャアが知るセイラは争いを嫌う性格であり、ましてや人に銃を向けるなどありえない、ということだ。

 その後も、セイラの行動は兄であるシャアを軸に語られる。

 ジオン兵と接触し兄の消息を知ろうと自らガンダムに乗って出撃する、という実に積極的・攻撃的性格の女性である。そして勇んで出撃したにもかかわらず、ガンダムのGに絶えきれず吐いちゃうのが可愛い。


 劇中での描かれ方は兄妹というより恋人のそれに近い。ナレーションで「セイラはシャアに詰問をする。ジオンを捨てよ、我が胸に帰れ、と。」とあるが「我が胸?」妹と抱き合うの?

 シャアが「アルテイシア、その素顔をもう一度見せてくれないか?」「きれいだよ、アルテイシア」なんてなことを言ったり。最後に「良い女になるのだな」と言って別れる。ふつー妹には「幸せになれよ」だろーが、キャスバル! エロいよキャスバル!

 これはもう敵味方に引き裂かれた恋人という、「闘将ダイモス」でやったモチーフをもう一度やるための方便として、兄妹という設定を作ったとしか思えない。


 アニメでの妹萌え発祥はセイラから。そして「くりいむレモン」野々村亜美、「みゆき」若松みゆきを経て、定番パターンとして定着したと言える。

 その後、萌え属性の定番としてメイドと並ぶ妹萌えとして固まるわけだが、セイラが持っていた方向性とはかなり異なる形での着地だったと言える。妹=ロリの方程式には、ぜんぜんセイラは乗っていない。


強気な性格、冷静な判断力


「軟弱者!」とカイに平手打ちを食らわせ、ジオン軍人(実は兄)に拳銃を突きつける。

 そんな強気はやはり、高貴な生まれが高い矜持がそうさせるのだろう。


 兄のこととなると冷静でいられないが、本来セイラは冷静で知的、そして教養のある人間である。

 一時ミライが艦長代理としてホワイトベースの指揮を執るが、うろたえて矛盾した指示を出すミライに対し、明らかにセイラの方が的確な判断を行っている。


 そんな性格だが、意外に目はさほど釣り目でもなく優しい顔立ちである。

 優しい顔立ちの女性がきつい表情をする、というところが顔(記号)=性格が徹底されている現状からみると面白いところだ。


その他

アニメでエロが成立する!


 月刊OUT1980-03号のヌードポスター「悩ましのアルテイシア」は、パロディ好きの同誌のお遊びの一環として企画されたものかと思う。実際ポスター下部には「パロディピンナップ」とある。

 それは編集部の思惑を越えて、「実用的」なものとして一部の(おそらくかなり多くの)読者に受け入れられた。アニメキャラクターが性的妄想の対象となることを高らかに宣言した(しちゃった)のだ。

 OUTでは、ゆうきまさみサンライズロボットアニメのアニパロを連載していて、セイラが落ちぶれた兄の食い扶持を稼ぐために、ヌードダンサーをやってた気がする(超うろ覚え)

 ちなみにその後、月刊ニュータイプは「悩ましのフォウ・ムラサメ」をポスターにする。こちらはもうパロディではなく、太ももまでのストッキングを履いたのみという単なる裸でない所が本気な感じだった。


 劇場版ガンダムのセイラの入浴シーンを撮影する人がいるということを知ったことが切っ掛けとなり、作られたとされる「くりいむレモン」第一作「媚・妹・Baby」は兄妹の近親相姦ものである。

 これをシャアとセイラからインスパイアされたと見るのは、穿った見方とは言い切れないだろう。


 小説版では「戦場のストレスの憂さ晴らし的に」アムロと肉体関係を持ち、事が終わるとさっさと寝てしまうという、もう完全にお子様置いてけぼりの展開。

 だいたいその名前からして「マス」である。余談だが、同じ富野監督と安彦良和による「コン・バトラーV」の南原ちずるは「千鶴→千ずる→せんずる」の意味が込められているとかいないとか。

 そして当時大きくなりだしたコミケでも、セイラがエロ同人の餌食となったのは言うを待たない。

 ただしキャラクタデザインが上手すぎることもあり、ファンが自由にキャラを描いたとは言い難い。このあたりラムとは対照的だ。

作られたブーム


 TV版がビデオ化されるのが遅れたため、多くの人の記憶には映画版の印象が強いかと思う。映画版はセイラの追加・描き直しの映像が多く、IIIに至っては殆ど新作ではないかと思われる。

 制作者は、かなり意図的にセイラをガンダムのメインヒロインにしようとしたことが伺われる。そしてライバルヒロインはフラウではなく、明らかにララァ・スンである。

 ある意味、TVシリーズは映画版を作るためのリサーチであり、その結果がセイラのメインヒロイン化だったということだ。

まとめ


 セイラの萌え文脈的に最も重要な役割は、当時隆盛を迎えていたロリコン(エロ)漫画と同様に、アニメでエロが成立することを証明したことだろう。

 また声優の井上瑤はアニメファンが拡大をはじめていた頃に呼応し、「うる星やつら」ラム役の平野文などとともに人気声優となる。

 そしてセイラは主役ではないキャラクタだ。そこに感情移入するファンが多数出たということも、ファン層の厚みが増してきたことを示している。


 セイラは姫、妹、パイロット、勝ち気で金髪碧眼と、かなりコテコテな「狙った」キャラでもある。

 どうもインタビューなどを読むと、富野監督やキャラデザインの安彦良和は「狙ったキャラで狙い通りに人気が出た」ということが逆に不満な様子だ。

 しかしそのような制作者の思いは思いとして、アニメキャラは「狙いにいって当てる」タイプが主流になる。なんせ狙えるのだから狙わない手はない。そしてそれは物語軽視(あるいは物語とキャラの遊離)の方向へ舵が切られたと言い換えてもほぼまちがいない。

 物語として非常に高いレベルに到達した「機動戦士ガンダム」のキャラで、その舵切りが行なわれたというのは皮肉な話である。


 今から見ると、セイラは全然萌えキャラといったデザインでも性格でもない。

 しかし、エロの対象となり、声優がクロースアップされ、キャラクタデザインの洗練(というか記号化)が進み、現在の萌えキャラとファンの関係を築く切っ掛けとなったキャラの代表、それがセイラ・マスであったというのは間違いない。