グリッド効果について

 萌え絵と言われる絵のキャラクタデザインには、一定のパターンがあるが、今回はそのうちグリッド線を取り上げてみる。
 グリッド線とは、身体を輪切りにする方向についた線、およびそれと垂直についた線。
 そしてグリッド線は、この文章を書いてみて、ほぼ男性向けの萌えポイントだということに気づいた。

グリッドの役割

描きやすくするためのグリッド

 一般的に言って、漫画家は絵の上手さが必ずしも必要なわけではないため絵描きとしてのレベルは低めになる。また、アニメの場合はある程度はレベルの低い人でも描けるキャラクタデザインにしないと、集団で作業することが不可能だ。
 そこで漫画やアニメでは、服を描くのが簡単な体の線にぴったりしたデザインになりやすく、結果として服と肌の境に環ができた、という面もありそうだ。
 下書き段階では立体を把握するために、環が描かれるのが一般的だが、そこからそのまま服のデザインとして流用しちゃう、ということも多そう。
 またアニメの場合は特に、手足に環があると向きがハッキリして動きが分かりやすい。

立体的に見せるための技術としてのグリッド

 二次元の絵を立体的に見せるにはどうしたら良いか。
 通常は影によって表現するわけだが、特に集中的に一部を立体的に見せたいと言う場合、実に簡単な方法がある。
 それは、グリッド線を入れることだ。
 エッチングのような、細い線で描かれる絵画では一般的な手法であり、現実にも網タイツは立体感を出すために意識的に使われる。
 漫画(バンド・デシネ)では、面に細かい線で立体をつけるメビウス(ジャン・ジロー)の画風がつとに有名である。

 線が入っていると立体的に見える。相反するようだが、二次元の絵は立体的に見えると魅力的に見えてくる。特に男性にとってはそういう傾向があると経験的に感じる。
 例えば、服にシーム(縫い線)を入れると、あら不思議、ちょっと魅力的に見えてくるというスンポーだ。

参考:バンド・デシネ - Wikipedia

パーツ分けとしてのグリッド

 これも特に男性にとっての傾向に思えるが、パーツの区切りがハッキリすると安心する、という習性がある。
 人間の体は当たり前だが、全体がつながっていて分割はできないようになっている。
 しかし、それでは落ち着かないのが人間、特に男性というもので、部位に名前をつけ分類してやっと落ち着く。
 女性の裸は好きだが、部位の切れ目がハッキリしないと落ち着かない、それが男性の一般的な嗜好だ、とここでは断言してしまおう。
 例えばストッキングや靴下があると、衣装で部位の区切りと名前が発生して落ち着く。

 グリッドは、以上の複合的な要素で構成される、なかなかに奥が深い萌え語りの道具と言える。

ニーソ・パンツ

 縞ニーソと縞ぱんが、二大萌えシマシマであることに異存がある人(オタク)は少ないだろう。存分に足と尻の立体感を強調してくれる。
 グリッドの基本かつ王道。
 現実に当たり前に履いているので目立たないが、縦縞のソックスも定番。

ニット

 萌え絵に出てくるニットの上着は、ほぼ間違いなく縦縞で体にぴったりしている。グリッド効果で特に胸の立体感が強調される。
 ファンタジーものの皮鎧のパターンの一つとしても定着している。

ストッキング

 ストッキングのシームは、女性の脚線を強調するものとして代表的なもの。実際履くとなるといつもラインがずれてないか気になって面倒なことこの上ないので、現実にはあっという間にシームレスに移行してしまったが、絵の世界ではライン入りは根強い。
 ストッキングの滑り止めリングも、もちろん横のグリッド効果を持つ。
 縦線と横線の組み合わせを持つシーム入りストッキングは、縞ニーソ以上の効果を持つアイテムともなるだろう。

プリーツ(襞)スカート

 プリーツスカートもグリッドの一種。特に萌え絵の類いでは、臀部や股間に張り付いたプリーツの線が執拗に描かれる傾向にある。
 パンツの皺とともに、臀部グリッドの二大巨頭だ。

袖・襟・裾など

 服と身体の境界には必ず線ができる。服飾デザインでグリッドを意識する部分だろう。身体に密着させればより分かりやすい線となるので描く方見る方ともに好まれる。
 ロンググローブ、ノースリーブ、タートルネックホルターネックチューブトップ
 体の線がはっきり出るレオタードやボディスーツの類いは、色っぽいので描かれがちと言う面もあるだろうが、全身を覆わない限りは、どこかにグリッド線が発生するということも人気の秘密だろう。
 男性とは逆に、女性はこの境界部分を膨らませたり、フリルやレースで曖昧にする方を好む傾向にあるようだ。

アクセサリー

頭部装飾

 髪は不定形であるので立体を把握しづらい。そこで登場するのがグリッド。バンダナ、サークレット、カチューシャ、ハチマキ、ヘッドフォン(ヘッドセット)といった、頭にグリッドを作ってくれるアイテムだ。
 特にカチューシャはヒロインの代名詞的なアイテムだが、頭が立体的に見えるから好まれる、という理由はかなり強いように思える。
 猫耳も立体強調効果があるので、カチューシャに猫耳がついている場合は、過剰でうるさく感じるが、そのくらいのうるささは珍しくないのが昨今のキャラクタデザインの流行でもある。

参考:外見要素-顔-耳-ケモ耳、ネコ耳 - 鳶嶋工房ゲームザッキ

リング

 チョーカー、首輪、マフラー、スカーフ。腕輪(ブレスレット)、腕章、ガーターリング、レッグホルスター、アンクレットなど。
 リングは服ではなくアクセサリーなので、何か足りない感じだなーというときに、簡単に後付けできるので便利。
 リングと言ったら、ストリートファイターII春麗」だが、格闘ゲームの場合の手首足首のリングはグリッド効果よりも、「ここから先に当たり判定があるよ」という意味が強い。
 バレーボールやローラースケートなどのニーパッド、エルボーパッドも、なかなかにステキなアイテムだが、フェチの多い膝小僧のラインを隠すこととスポーツ中限定であることもあって、今後も「それなりに人気」以上は難しそうだ。

包帯

 そんなところだけ怪我するわけないのに、太ももに包帯が巻かれるのは、グリッド効果を期待してのことだ。同級生「田中美沙」が印象にのこる。
 ぴったりしたパイロットスーツに線を描いた上に、さらに包帯を巻いた新世紀エヴァンゲリオン綾波レイ」は卑怯な程のグリッド美少女と言える。
 包帯ではなくてさらしだが、うる星やつらの「藤波竜之介」は、男っぽい言動以上に胸の立体を強調しているのは言うまでもない。

身体

水着・日焼け跡

 日焼け跡が萌えるは、区切り線の理屈で説明できる。
 当然、極端なハイレグの日焼け跡の場合、パーツの区切れとしては曖昧感が漂い今ひとつと言える。日焼け跡は旧スク水ローレグ・スパッツの方が区切りとしても立体感の演出としても優れている。
 そもそも立体として認識できる三次元と、工夫がないと立体感が出ない二次元ではファッションの文法もかなり異なる。

腹部

 女性器を線一本で描いたものは「スジ絵」と言われるが、幼さの表現が主要な目的だろうが、グリッドだから萌えるのではないかとも思える。ヘソを中心にすこし縦に腹筋のスジを付けるのも同様だろう。さらに本気で腹筋の割れた絵の場合は、より効果が高い筈だが、筋肉質の女性という時点で人を選んでしまうのが難。
 体にぴったりしたパイロットスーツの中心に線を入れるパターンは多い、もともと身体に有る縦ラインを想像させつつ、グリッド効果を出す一石二鳥のデザインといえる。

ロボット継

 ロボット少女の継ぎ目線は機械であることの記号でもあるだろうが、立体感とパーツ分けの効果が高い。
 ロボットの場合はその継ぎ目は正にパーツの区切れだから、あそこから分割できるんだということを知らせ、ロボットの分割萌えの心を刺激する。

参考:複合属性-種族-ロボット - 鳶嶋工房ゲームザッキ

アセ

 萌え絵、特にエロではやたらと体表に液体が付くが、これはグリッド効果を発生させるため、極めて簡単に男性読者の注意を引くことができる。
 女性読者は立体的=魅力的の感覚がない上に、汗そのものが臭いものとして嫌われる傾向にあるので、レディコミではアセが少ない。水を浴びた「水も滴るいいオトコ」の表現は少なくないが、これはグリッド効果とは関係なさそうだ。

 ミレーの描いた「オフィーリア」がひとを惹き付けるのはそこに死を感じさせるからであるだけでなく、水面に漂う女性にグリッドができているからだ。
 水と戯れる女の子が可愛く見えるのは、水面で輪切りにされているからだ。

 医療機器によるスキャンが行われているときにドキドキするのは、女の子のカラダを調べているからだけじゃなくて、グリッド効果があるからだ。
 本当に輪切りにされている「半分子ちゃん」なんかカットモデルのソリッド感が魅力なだけでなく、断面にグリッド効果があるから魅力的なのだ。いやむしろ、グリッド効果は常に断面を想像させるから魅力的だともいえる。

まとめ

 漫画やアニメを見て「もっと実際の服に近いデザインにできないのかな?」と思う人も多いとおもうが、三次元で映えるデザインと二次元で映えるデザインは違うということは、理解されたかと思う。
 どこに環ができているかを意識して、漫画やアニメのキャラクタを見るのも面白いかと思う。