怪力美女・怪力娘・怪力幼女
怪力のどこが内面だよ、と思うむきも多いかとおもうが、「キャラクタデザイン画で表現できない要素」は内面要素か関係要素という分類にしているので悪しからず。
今回は、クーパが可愛いので怪力幼女を研究してみた…じゃないよ。それもあるけど。
萌え要素として意外に中心的な役割を持つわりに、注目されていない「怪力」を取り上げてみることにする。
怪力娘の歴史
さて怪力娘とは、女性に似合わぬ力を持ったキャラクタのことだ。
ただし女子プロレスラーとか格闘家・武道家のように鍛えて強い女性ではなく、どう見ても強そうには見えないのに机を片手で放り投げるぐらい当たり前のキャラクタのことを指す。
だから「チャーリーズエンジェル」や「ルパンIII世」峰不二子、「剣客商売」佐々木三冬や「あずみ」は、ここには入らない。あのへんは荒唐無稽に見えても訓練して強い女である。
いきなり時間は昔に飛ぶが「今昔物語集」の中には「相撲人大井光遠の妹」とか、北斎の絵のモチーフともなった「強力の女高島の大井子」とか「尾張の国の小女」とかまぁ怪力娘がぽんぽん登場する。
怪力女に限らず、基本萌え要素は古典で登場し尽くしているといっても過言ではない。
明治期にいちど萌え文化が廃れ、今になってやっと復興してきたと言った方が正しい捉え方かと思う。
アメコミの世界では「ワンダーウーマン」1941-10を代表とする怪力美女の流れがある。
その後も「X-MEN」シリーズなどで怪力美女の系譜は絶えることなく続いた。TVドラマシリーズ「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」1976などは日本にも大きな影響を与えている。
また「パワーパフガールズ」1998などで新たな怪力娘を見ることができる。
この二つの文化が渾然一体となったのが、現在の日本の怪力娘と言える。
力の理由
ロボット・サイボーグ・パワードスーツ
アメリカでは最初から女の子と怪力のギャップ萌え路線が成立していたが、日本では設定からすれば怪力の筈の「鉄腕アトム」ウラン1952や「サイボーグ009」フランソワーズ・アルヌール1964は怪力を売りにしたキャラではなかった。このようにサイボーグやロボットであっても、諜報・看護などの怪力不要のポジションに収まっているパターンがこのころは多かった。
「ミラクル少女リミットちゃん」西山リミット1973-08は少女向けアニメと怪力サイボーグ少女の組み合わせが新しかったが、…ちょっと新しすぎた。
同時期の「キューティーハニー」如月ハニー1973はアンドロイドだが、あまり怪力を発揮せず、どちらかというとセクシーアクション系魔女っ子といった風情。
「コブラ」アーマロイドレディ1978は、重いものを持ち上げたり厚い壁をぶち破ったりと怪力っぷりを披露。スタイリッシュな怪力美女を日本に定着させた転換点のキャラクタだろう。
怪力の女の子は面白くて可愛い、という目的意識を持って作られたキャラクタは「Dr.スランプ」則巻アラレ1980-01だろう。
「Dr.スランプ」の漫画アニメの大ヒットが、小さな女の子がむやみと強いというパターンを根付かせた。
この後は怪力のロボット・サイボーグのキャラクタは枚挙に暇がない。
代表的キャラクタとして「攻殻機動隊」草薙素子1989-05を挙げておく。
参考:ロボット - 鳶嶋工房ゲームザッキ 、パワードスーツ - 鳶嶋工房ゲームザッキ
戦闘服で怪力
パワードスーツとの境界が曖昧だが、機械っぽさがなく魔法少女に近いので分けた。
「ウイングマン」ウイングガールズ 1985(ぐらい?)は、美少女戦隊の走りと言っていいだろう。プロレス技や特撮ヒーロー系の技を使い、わりと肉弾戦も披露した。
「美少女戦士セーラームーン」1991では飛び道具攻撃が多く、登場時に怪力少女呼ばわりされたジュピター(木野まこと)ですら、怪力描写は少なく残念。
「ふたりはプリキュア」シリーズ2004は、変身後ばんばん怪力を発揮する非常にスカッとするアクションが売りだ。
超能力
怪力というのはアメリカンヒーローの中では立派な超能力の一種だが、ここでは特に念動力(P.K.)を使った怪力を別に考える。
「紅い牙・ブルーソネット」ソネット・バージ1981は、サイボーグかつ超能力者という大盤振る舞いキャラ。
ちなみに「テレパシー少女「蘭」事件ノート」磯崎蘭1999-03の名前は、「紅い牙 狼少女ラン」小松崎蘭のオマージュだろう(ここでは、どーでもいいが)
「きまぐれオレンジ☆ロード」春日くるみ1984は、主にコメディのための怪力だった。
「絶対可憐チルドレン」明石薫2003-07は超能力で重いものも軽々と持ち上げる。
こういう理由づけをちゃんとやるのが、椎名高志の良いところであり古くささである。
最近は特に理由もなくいきなり力持ちであることが、すんなり許容される時代だ。それはキャラクタの目が赤いのに既に理由がないのと似ている。
これは「今昔物語集」の時代の理由づけの軽さ(だって力持ちの一族ですから)に先祖帰りしているとも言える。
野生
野生育ちだから怪力というのは、理由になっているようななっていないような感じだが、何となく納得できる。
野生ヒロインは、スーパーヒロインの前に、アメリカで発生したターザンガールの流れで捉えた方がしっくり来る。「ジャングルの女王 シーナ」シーナ1938が嚆矢。怪力云々より、下着同然のセクシーな衣装の女性が描ける、というのが重要な要素だろう。
「ジャングルの王者ターちゃん♥」ヂェーン、「クロノ・トリガー」エイラ、「すもももももも 地上最強のヨメ」九頭竜もも子
人外
「まじかる☆タルるートくん」ミモラ1988、「金色のガッシュ!!」ティオ2001、異界からきた主人公の彼女は怪力の傾向があるのか…。
「CLAYMORE」2001-07のヒロインたちは半人半妖の存在だ。存分に大剣を振るい、その怪力を隠そうとはしていない。
この作品の場合、大剣をふるう男性主人公「ベルセルク」ガッツ1989が既にあったので成立したと言える。
ところで、持っている武器がやたらと大きいキャラクタは多い。これらのキャラクタは実生活では、あんまり重いものは持てなかったりする。
どうもでかい武器は、なぜか非力でもぶん回せるものらしい。勿論、それらは怪力キャラではない。
特に理由もなく怪力
「うる星やつら」三宅しのぶ1978は、ジェラシーの視覚的表現としてラムが電撃を使うので、それに対抗するために怪力を身につけたのだろう。「うる星やつら」はとにかく怪力美女が多く、少年誌のラブコメヒロイン=怪力路線を作ったとも言えそうだ。
そして「プロジェクトA子」1986は、完全に怪力娘を中心に据えたアニメとしてエポックメイキングなものだ。怪力はすごいアクションシーンを描くための理由としてしか存在しない。
たぶん会議は大雑把に「しのぶが主人公で敵役は面堂の女版とかいいいよね?」「いいねーメカとアクションてんこ盛りにできるなー」「じゃ決定」という流れでそんなに間違っていないと思う。そーゆーノリは大事なことだ。
「鋼の錬金術師」キャスリン・エル・アームストロング2001、姉も大概な豪腕だが、妹の方がより怪力として描写されている。
あの兄にしてこの妹あり、というギャグのためだけに存在する怪力と言っても過言ではない。もうこのへんになると、怪力娘はさほどキャラクタとして特別な存在ではない。
ちなみに初音ミクはアホの子だが、鏡音リン2007-12は黄色→ロードローラーだッ!!!→WRYyyyN!!→スタープラチナと同じパワータイプという流れで怪力少女設定になっている。
何を表現するための力か
神的なものの証としての力
昔から特別な人間の存在の証として
それは洋の東西を問わずに存在する。
ただ、萌え文脈ではあまりこれは無く。力は怪力ではなく超能力として与えられるパターンが多い。
ギャップのための力
萌えの基本のひとつとして、落差がある。
か弱いはずの女の子がとんでもない怪力を持っているというのは、ギャップとして非常に面白い。
以前は峰不二子で十分「か弱いはずの女が強い」というギャップを持っていたが、今となっては「見るからに強そうな女」の代表のような存在だ。
ぅゎ ょぅι゛ょっょぃ(怪力幼女)
ギャップに慣れすぎて、少々の落差では驚かなくなってきたので、大きな落差を作るために幼女+怪力キャラクタが発生したものかと思われる。
ただ、初期はどちらかというとコメディ要素の方が強くあり、ギャップに萌えるということを自覚してのキャラデザインは則巻アラレ以後だろう。
ただし、則巻アラレはコメディのための怪力の要素が圧倒的に大きいキャラでもある。
スウェーデンの童話「長くつ下のピッピ」ピッピロッタ・タベルシナジナ・カーテンアケタ・ヤマノハッカ・エフライムノムスメ・ナガクツシタ (愛称ピッピ…なげぇよ)1945は、小さい女の子で力持ちというキャラの嚆矢。日本アニメでは「さるとびエッちゃん」猿飛エツコ1971あたりが早い時期に登場した怪力幼女だ。
幼女にバトルアックスというモチーフは割と多く見られる。小人だが戦斧をぶんぶん振り回すドワーフのイメージが先にあり、ヒゲは醜いので幼女と入れ替えたというのが成立経緯かと思う。
「モンスターメーカー」ディアーネは幼女ではないがデフォルメされた絵なので、イメージ的には嚆矢と言っていいだろう。「クイーンズブレイド」ユーミルなんかはドワーフ族の姫なので、このイメージの典型と言える。
ざっと挙げてみると、心なしか最近増える傾向にあるような…。
「テイルズオブシンフォニア」 プレセア・コンバティール、「GUILTY GEAR」メイ、「怪物王女」フランドル、「アイドルマスター XENOGLOSSIA」リファ、「ドルアーガの塔 〜the Aegis of URUK〜」クーパ
コメディ
「シティーハンター」槇村香1985が100tハンマーをぶん回すことが特に有名だが、このようなシリアスな物語で、コメディシーンのみ怪力というパターンは多く見られる。
例えば「ふしぎの海のナディア」ナディアは、コメディシーンでは大岩を持ち上げるようなこともやるが、通常は少々(?)暴力的な程度だ。
今やラブコメの、コメディシーンでひっぱたかれて成層圏突破…星(きらーん)は定型化されており、怪力描写とはされない。
このパターンを極端にしたのが「撲殺天使ドクロちゃん」ドクロちゃん2003-06である。ツッコミでいちいち殺す。
ゲームのルール
ゲームの場合はまず「強い女の子」ありきで存在するキャラクタである。
つまり、ロボット・サイボーグ・超能力という要素の付加要素としての怪力ではなく、怪力の意味づけとしてのロボット・サイボーグ・超能力であり、そのうちの何かはあまり関係ない。
特にこれはゲームに多く見られる。何せ怪力かどうかはゲームのルールの根幹に関わるからだ。
1990年頃からの対戦格闘ゲームのブームは、女性が戦うことへの抵抗感を低くし、女性が完全に100Kgを越えていそうな男性を投げ飛ばすのを普通の光景にしてしまった。
ただ、対戦格闘ゲームの女性はここで語っている怪力娘とは別のカテゴリなので、深くは語らない。
ゲームの怪力娘といえば、例えばアイレム「アンダーカバーコップス」ローザ・フェルモンド1992が電柱を軽々と振り回すという勇姿を見せてくれた。
また、ナムコ「ニューマンアスレチックス」シャロン・レアール1993、「マッハブレーカーズ」コトブキ・マコトが新幹線を素手で止めるわミサイルを片手でぶん投げるわという有り得ない怪力っぷりを見せていて、このあたりになると訓練でどうこうなる次元を越えていて「キン肉マン」の超人的だ。
そして、なんでもかんでもぽんぽん投げるエニックス(トレジャー)「ゆけゆけ!!トラブルメーカーズ」明朗快活メイドロボ、マリナ=ナゲット1997は、非常に分かりやすいパワフルヒロインだ。
これらのキャラクタは、まずゲームのルールありきの怪力と言える。
ただし、ゲームでもストーリー指向のアドベンチャーやRPGとなると、あまり怪力はゲームの根幹には関わらない。
例えば「ファイナルファンタジーVII」ティファにしても、攻撃のアクションが違うだけだった。
まとめ
怪力ってのはビジュアルとして分かりやすいので、漫画・アニメ・ゲームでは、これからも多用されていくだろう。