「不思議の国のアリス」アリス

 今回は、谷村新司堀内孝雄矢沢透のバンド、アリスを取り上げ…たりはしない。
 萌えキャラのあまりにど真ん中にいるので、盲点となってしまうほどの萌えキャラ「不思議の国のアリス」のアリスを取り上げる。
 日本を代表するとさえ言えるアダルトゲーム会社の名前が「アリスソフト」であることからも分かるように、アリスは萌えの代名詞となっている。アリスという名前だけで、そこにはもう「美少女」という意味が深く刻まれているのだ。

 なお、今まで取り上げたキャラのラインナップは萌えキャラ一覧を参照のこと。

参考:♥. ♦不思議の国のアリスの部屋♠. ♣

アリスが与えた影響

引用元としてのアリス

 童話・児童文学の中のヒロインは、萌えに繋がる要素が非常に多く含まれている。萌えは彼女たちから産まれたのだから当然といえる。
赤ずきん」「親指姫」「ラプンツェル」「眠れる森の美女」「白雪姫」「シンデレラ」「人魚姫」「マッチ売りの少女」「赤い靴」「オズの魔法使い」「かぐや姫」「雪女」「鶴の恩返し」など、グリム童話アンデルセン童話を中心に、萌えキャラのイメージソースとして良く引用される。
 例えば「赤ずきんチャチャ」「ぴちぴちピッチ」「新白雪姫伝説プリーティア」「おとぎ銃士 赤ずきん」「プリンセスオブプリンセス」などなど。

 その中でも特に意識無意識に引用の対象となることが多いのが「不思議の国のアリス1865である。
アリスSOS」「アリス探偵局」「学園アリス」、ゲームでもApple純正である「Alice〜Through the Looking Glass」を始めてとして「ありす・イン・サイバーランド」「アリス イン ナイトメア」「歪みの国のアリス」など、アリスをタイトルに関するものだけでも多数有るし、「メルヘンメイズ」のようにアリスを題材にしたものを含めると、更に沢山ある。
スーパーマリオブラザーズ」マリオがキノコで大きくなるのも、アリスからの引用だろう。
 少女が主人公でなくても「ガンダム・センチネル・アリスの懺悔」のように、タイトルを飾ることは珍しくない。AIや組織・クリーチャー・ロボットなどの名前になることも多い。「ローゼンメイデン」では物語の中核となる「アリスゲーム」として名前が使われている。
 また「ARIA」アリス・キャロルのように、登場人物の名前に使うことで印象を重ねるような使い方も非常に多い。
 SF作家ジェイムス・ティプトリー・ジュニアの本名がアリスなので「センス・オブ・ワンダーランドのアリス」とか呼ばれたりする。「○○のアリス」という肩書きやタイトルは非常に多い。

 アリスだけではなく「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」に登場するキャラも多く引用される。例えば「ARMS」ではアリスは勿論ジャバウォックなどの名前も多く登場する。「コブラ」ではチェシャ猫が使われ。「ウィザードリィ」にはヴォーパルブレードという武器がある。「うる星やつら因幡は、アリスを不思議の国へ誘う兎紳士をイメージソースとして持っていることは間違いない。そして「マトリックス」ネオは白い兎を追いかける、のだ。

 また、前述のバンドや有栖川有栖上海アリス幻樂団を持ち出すまでもなく、アーティストの名前としても魅力のあるようで、アリスの名を持つ作家は多い(由来は必ずしも「不思議の国のアリス」ではないが)

不思議の国のアリス」は即興で語られた物語で、完成度が高いとは言えない。そのため多くの作家や素人が改変に挑戦することも多く、パロディ・パスティーシュのネタ元として非常に優秀な作品である。
 これは、非常に日本の同人誌と似た作品の楽しまれ方と言える。
 また「不思議の国のアリス」自体が物語的にも絵的にも、様々な物語や時事ネタからの引用で成り立っていて、それが趣味で描かれたところも、極めて同人誌的…というより同人誌そのものだ。

不思議の国のアリス」は聖書に次いで読まれている本(あるいは聖書以上)とも言われ、現代の基礎教養中の基礎教養と言っても過言ではない。

ロリコンの源泉

 基本的なこととして「不思議の国のアリス」は少女のために書かれた本である。
 そのため、当たり前だがアリスは大人に恋したり、逆に恋されたりというロリコン的な描写は特にない。そのように読むこともできなくはないが、有り体に言って捏造による読書である。
 ロリコン描写は「大人のために書かれた」本に存在するべきものであって、「少女のために書かれた」本にあっても意味がない。

 ルイス・キャロルことドジスン先生は写真が趣味だった。彼が撮った少女の写真は、天使や神話の登場人物、乞食や中国人などのコスプレ(当時はそうは呼ばなかったが)をしたものも多く、その延長として裸も撮っていた。それが問題となって彼が写真を止めたという説がある。
 しかしそれはかなりうさん臭い説であるように思う。教師であり聖職者である立場にもかかわらず、成人女性の水着を撮りたがったということが当時は問題視され、成人女性の写真が破棄され少女の写真が残ったというのが本当のところだろう。当時のイギリスには少女を性愛の対象にするという発想自体がほとんどなかったようで、少女のヌード写真は問題とならず、(例えば天使の)ポストカードとして売られることも珍しくなかったらしい。
 また、写真の撮影には親の許可や立ち会いをもって臨んだというので、少女愛好家であっても少女性愛者ではなかった、というのが現在のルイス・キャロル像と言える。ただし女好きであったことは否定しようもないし、本人も認めるところかと思う。
 ちなみに、近年ロリコンの代表としては、ルイス・キャロルよりチャーリー(フェラチオ)チャップリンが取り上げられることが多い。

 アリスそのものというより、そういう少女達が好きなルイス・キャロルのイメージは(「不思議の国のアリス」のロシア語への翻訳も手がけた)ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・ナボコフ「ロリータ」へとつながり、引いては日本のロリコンブーム、現在の萌えへと繋がっている。
 ロリータがいることによって性的イメージの強いロリータに対する、健全な美少女としてのアリス、という差別化も存在している。

参考:日本のサブカルチャーにおける《ルイス・キャロル=ロリータ・コンプレックス》像の定着史

本としてのアリス

ライトノベル

 もし「不思議の国のアリス」に挿絵がないとしたら、それはまったく「不思議の国のアリス」ではありはしないだろう。
 冒頭にある絵や会話のない本なんて、なんの役にもたたないじゃないのという一文が、端的に示している。
 では逆に「絵と会話のある本」とは何か、これはもう漫画としか言えない。「不思議の国のアリス」は漫画として登場し、舞台化され、実写映画化され、アニメ化された。
 小説と漫画の中間に有るメディアとしては、絵巻物、絵本、紙芝居、絵物語ライトノベルなどがある。これらの系譜上に、確実に存在しているのが「不思議の国のアリス」だ。

TRPG

「地下の国のアリス」は話し相手の一人であるアリスを主人公として、その反応に合わせて即興で作られた話だ。
 文中のセリフの幾つかは、アリス本人の反応そのままではないかと思われる。アリスは物語の主人公であると同時に、物語の共著者でもあるわけだ。
 これは極めてTRPG的な、いやむしろTRPGそのものと言っていいだろう。
 つまり、後に出版される「不思議の国のアリス」は世界初のTRPGのセッションリプレイ小説と言えるわけだ。

アリスの背景

 物語のアリスの産まれた1864とは19世紀イギリスとは、どんな時代だったろうか。

科学技術の時代

 19世紀中頃のイギリスとは、万国博覧会も開かれビクトリア文化華やかなりし頃だ。
 時計や写真、蒸気機関と線路・紡績機、そして(カラー)印刷技術の発達により、世は産業革命を迎えていた。
 そして、顕微鏡や進化論などの科学の技術・理論の発展も著しく、その技術・理論は一般人も知ることとなった。
 世の中には中産階級(middle class)が発生し、それとともに余暇や趣味などの概念が世に広まることとなる。

子供文化の発見と発達

 子供は16世紀に「発見」されたとされている。その前は子供は小さな大人でしかなかった。
 しかしその後も、子供文化は発生せず、例えば子供服とはその後も小さな大人服でしかなかった。
 産業革命により余暇とともに教育という概念が広まり、そこには働く大人と学ぶ(遊ぶ)子供という文化の違いが産まれた。

工業と子供文化の融合

 子供文化と印刷技術の融合は「児童文学」の発生でもあった。その初期の代表が「不思議の国のアリス」であり、現在に至る代表作でもある。グーテンベルクから4世紀、大量印刷の難しかったエッチング等から、比較的版の持ちがいい木口木版(凸版)により挿絵と字が混在した形での大量印刷が可能になっていた。更に原本の「地下の国のアリス」は電子的な印刷であるファクシミリ版として出版されている。風刺雑誌パンチで活躍したテニエルの絵は、日本ではポンチ絵と呼ばれ「漫画絵」の元となった絵でもある。そう、アリスの絵は印刷のための絵であり、世の中に広がるための絵であった。

 アリスの時代には、ファンシードレスというものが産まれている。
 ファンシードレスとは仮装舞踏会用衣装、つまりコスプレ服であり、欠片も実用では無い服を役者でもないものが着るという文化の発生がそこにはあった。
 ケイト・グリーナウェイの描いた19世紀初頭スタイルを代表とする懐古的な服や、童話の主人公や天使のようなキャラクタ服、様々な職業の典型的服(制服)や異国の民族服、軍服(セーラー服)など、コスプレの基本的なものは既にこの時代に揃ったと言える。

 そして子供文化と紡績の融合がキャラクタ子供服である。大人向けのキャラクタ服も存在した(例えば現在でもケリーバッグなどはキャラクタ服の一種と言えるかもしれない)が、子供向けが中心と言える。
 キャラクタ服とは、コスプレの中でも特に物語の登場人物の着ていた衣装のことで、現在のバンダイが展開するなりきり変身スーツ、変身ドレスの類いだ。
 前述の挿絵の豊富な本はイマジネーションを刺激するだけでなく、ファッションの手本ともなった。また、工業化された紡績は、その服をオートクチュールではなく、流行の服として大量に生産することも可能とした。
 ほとんどその代名詞とも言えるのがアリスの服である。アリスの服は児童服の発生と期を一にして相互補完的に発展していき、現在でも人気の高いキャラクタ服となっている。

イギリス

 ティーパーティーやクロケー、トランプ、チェス、マザーグース、騎士、帽子屋、女王、アリスの物語はイギリス的な記号に溢れている。
 それは「寿司天ぷら、芸者フジヤマ」と同じような、異国情緒のカリカチュアではあるかもしれないが、それは異国がファンタジーでありえた時代を思い起こさせるノスタルジーでもある。

 ここで、所謂ビクトリア王朝時代(1837 - 1901)のイギリスのキャラクタを挙げてみよう。
 犬アニメ「名探偵ホームズ」ハドソン婦人(19)はエプロンドレス姿を見せてくれる。
 メイドを描いた「エマ」もこの時代で、ジョーンズ家の末娘ヴィヴィーは極めてアリス的造形のキャラだ。
 地下を冒険するアリスのイメージソースともなったと言われる「地底旅行」を書いたジュール・ベルヌ。彼の代表作「海底二万里」もこの時代を舞台としており、後に「ふしぎの海のナディア」の原案となる。そこに登場するマリーの格好は、服は赤いがほとんどまんまアリスである。
 所謂スチームパンクはこの時代そのものではないが、この時代をベースにしており、「スチームボーイ」エマなんかは、アリス的ファッションを身につけている。
 また「明日のナージャナージャ・アップルフィールドもチェックの服にボーターハット、そしてエプロンドレスというイギリス風味十分のキャラだ。
 このように、イギリス少女のステロタイプとしても、アリスは多く現れる。

外見要素

アリス・リデル

不思議の国のアリス」のモデルとなったアリス・リデルは、ストレートの黒髪のおかっぱ頭の彫りの深い顔立ちの少女で、「レオン」のナタリー・ポートマンなんかが、その系統。
 もちろん普通の女の子なので当時の普通の服をきていた。この服はテニエルが描くアリスに近いものである。
 オックスフォードのクライスト・チャーチ・カレッジの学寮長の娘という、典型的中産階級の少女であるが、貴族の血を引いてもいて、上流階級(upper middle)に属すると考えてもそう間違いではない、要するにお嬢様、あるいはお姫様である。
 アリス・リデルと物語のアリス、そしてドジソン先生とルイス・キャロルについては映画「ドリームチャイルド 」が取り上げている。
 現在、アリスと聞いてこのアリスを想像する人は、あまり多くないだろう。

ルイス・キャロル

 ルイス・キャロル自身によって描かれた「地下の国のアリス」は、アリス・リデル本人とも違う、ウェーブのかかった黒髪の少女だ。
 服もアリス・リデル本人が普段着ていたものとは異なり、サッシュベルトのゆったりとした服で、当時の流行とも異なる。
 このようにルイス・キャロルが描いたアリスも、現在の一般的イメージではない。

 神話的な雰囲気のある、ラファエロ前派の影響があるとも言われるが、ルイスの絵はさほど緻密なものでもないため断定はできない。むしろケイト・グリーナウェイスタイルにも見える。
 ルイス・キャロルはパフスリーブも巨大なものを嫌い、クリノリンやコルセットなどの人工的にシルエットを作るものを嫌っていたというから、どちらにしろ自然なものを好んでいたことは確かなようだ。
 文章からは、靴を履いてるということと、ポケットの有る服を着ているというぐらいの情報しかなく、挿絵がつくことを前提として本文が書かれたことがうかがえる。

ジョン・テニエル

 最初に出版された「不思議の国のアリス(Alice's Adventures in Wonderland)」1865のアリスは、パフスリーブと大きく広がったスカートを持つドレスに、ストライプつきのエプロン。ハイソックスと平底の革靴。ウェーブのかかった金髪を後ろに梳いておでこを見せている。頭でっかちだが整った鼻と唇を持つ大人っぽい顔だち。というデザインだ。
 このデザインはテニエルが以前から挿絵や風刺画に使っていた「イギリスを象徴する女の子」のデザインほぼそのままであり、わりと現実に見られた女児の姿であり衣装と言える。例えばスカートの裾には3段のタックが入っていて、成長に合わせて裾を伸ばせるようになっている。これがリアルに中産階級の子供であることを示している。
 初版は色がついていないが、のちにテニエル本人によって彩色された(との説が有力な)絵本「子供部屋のアリス」が出ていて、そこでのカラーリングは黄色いドレスと青いリボンやソックスである。
 そして「鏡の国のアリス」では、テニエルは横縞(ボーダー)のソックスを履いたアリスを描いていて、頭にはリボン付きのヘアバンド(現在はこのイラストからアリスバンドと言われる)をしてしいて、腰には大きくオシャレなリボンが付いている。萌えデザイン的に「万全」と言っても過言ではない。
 例えば「機動戦士ガンダム」キッカ、「THE IDOLM@STER水瀬伊織、「ドルアーガの塔 〜the Aegis of URUK〜」クーパ、「VOCALOID2 鏡音リン・レン鏡音リンなどのロリ系キャラに、アリスバンドのデザインを見ることができる。

 また前述のウサギをはじめ、動物と、その擬人化を得意としたテニエルならではの挿絵がふんだんに使われ、アリスの世界を豊かにしている。
 擬人化は童話や風刺画の定番ではあるとはいえ、アリスの姉と妹はインコと子ワシとして登場しているし、生き物ではないカードやチェスのコマも女王に擬人化されて出てくる。ここには擬娘化のルーツの一つを認めることができる。
 そして、テニエルは伝統的なアイコンを多く絵の中に盛り込んだため、その絵解きが面白い。例えば三月ウサギは藁の冠をかぶっていて、これは当時のイギリスではキチガイの象徴である。これがアホ毛に繋がっていると解釈したりすることもできる。
 テニエルの絵は、ルイス・キャロルの文と同様に、なにかと新たな想像を刺激する絵である。

 テニエルは「不思議の国のアリス」の挿絵を描いた時点で既に人気の有るベテランで、当時はルイス・キャロルの本というより、テニエルの絵が沢山入った本として人気があった。
 テニエルは「ちょっと懐かしい風景や服装」をアリスの世界に使った。アリスはその初出版時点から懐かしい雰囲気を持った物語だったのだ。

 その後、様々な画家によって工夫を凝らされたアリスの絵が描かれたが、上記のテニエル式のデザインを踏襲したものが多い。
 1907にアーサー・ラッカムの描いたアリスは赤い髪で、白地にピンクの花柄の近代的ブラウスを着ていた。モデルの少女に服を着せてデッサンを行ったというリアルなタッチで、しかも陶器のような美しさのある少女として素晴らしく仕上がっていた。しかしこのアリスは、イメージが違うと酷評を浴びることになる。テニエルの作ったイメージが、いかに強烈だったかが分かるエピソードだ。これに懲りたのか、続編「鏡の国のアリス」の挿絵を描くことをラッカムは断固として拒んだと言う。
 ちなみに、アーサー・ラッカムはファンタジー、メルヘン画家として高名で、イギリスイラスト史に大きな足跡を残した。日本ではイギリス系のTRPGゲームブックの挿絵を通じてラッカム調の絵を見ることができる。

参考:Alice's Adventures in Wonderland: Japanese 山形浩生訳アーサー・ラッカム 「不思議の国のアリス」

アップデートされるファッション

 その後、テニエル自身もアリスのファッションを描き直し、そして他の作家も競ってアリスの服に工夫を凝らし、流行のファッションを取り入れた。
 フリルがレースになったり、色が変わったり、プリント柄のドレスやセーラーカラーの服を着ることもあったし、赤地に白の水玉の(ミニーマウスみたいな)服を着たアリスもいる。
 ルイス・キャロル存命中にも青い服を着たアリスは描かれているが、それはその他の多くのアリスのバリエーションの一つの域を出るものではなかった。

 特に、原作の版権が切れた1907-10以降は、「不思議の国のアリス」がファッション誌やカタログ代わりのような性格を強めることになる。
 アリスが産まれた時代は、ハロッズに代表される消費文化の産まれた時代でもあった。

 その後も、テニエルのものをベースとしつつも、時代時代の流行が取り入れられてアリスの服は作られてきた。
 なお日本に於いては、アリスの名前が「あやちゃん」となって翻案され、当時の日本の少女の服装(和服ではないが)で描かれたりもした。

ディズニー

 ディズニー1951のアリスが青い服を着ていたため、特に日本ではアリス=青で定着している。
 ディズニーの映画に現れたアリスは強烈な印象を残し、現在サンタクロースの衣装が赤以外考えられないのと同様に、アリスと言えば青いドレスとなっている。
 また青いエプロンドレスは、日本の萌えメイドの原イメージともなっている。

 その姿は、ジョン・テニエルによるものと酷似しており、一度発散しようとしたアリスのイメージを、愚直とも言えるほどのオールドスタイルで定着させたのがディズニーのアリスであったと言える。
オズの魔法使い1939ジュディ・ガーランドが演じたドロシーが白いブラウスに水色のオーバーオールタイプのスカートだったことをふまえて、青と白を逆にして、水色の上着に白いエプロンを着せたのかもしれない。スナッピングタートルに対するツヴァークの足と言えば分かりやすい(人には分かりやすい)
 ある程度似ているが故に、アリスの成功後ドロシーの衣装の印象は、ずっと弱くなってしまった。今や、絵本が描かれるとアリスはほぼ間違いなく青いドレスなのに対し、ドロシーはまったく色彩的方向性は統一されていない。ちなみに「赤毛でおさげ」というところがドロシーの共通イメージだ。このイメージは同年代の「赤毛のアン」、ハンバーガーショップウェンディーズ」のマスコット、「ガンxソード」ウェンディ・ギャレットや「THE IDOLM@STER秋月律子に見られる。
 また、アリスの歴史あるイギリスイメージに対し、ドロシーのアメリカイメージは、まだファンタジー的に弱いところもある。この辺りは、別にまとめた方が良いかもしれない。
 ちなみに「スケアクロウマン」アリスは、名前こそアリスだが、お供に案山子とブリキの人形と猛獣をつれた、ドロシー的なキャラだ。

 なお、同じディズニーの「白雪姫」1937や「シンデレラ」1950はその物語の衣装と言えばアレ、というほどの色イメージを確立しているわけではない。アリスのドレスの色を聞いたときに、アリスはほぼ100%が青か水色に答えが集中すると思うが、白雪姫やシンデレラだと白やらピンクやらの意見も多く出そうだ。

 欧米のヒロインは顔が恐いとか、日本が萌えを作ったとか言ってる言説をちょいちょい見かけるが、欧米のアリスでもガチで可愛いものも多く、日本の萌えの源泉と言っても良いだろう。
 例えば今もアルフォンス・ミュシャノーマン・ロックウェルの絵は日本でも人気が高い。
 欧米キャラが萌えないというのは、FPSだけ見て洋ゲーは同じようなのばかりと言っているのと同じ錯誤だ。
 私なんかは、うかうかしていると、またアメリカ・イギリスが日本を粉砕するほどの萌えで攻めてくるんじゃないかと戦々恐々と(楽しみに)している。

参考:ディズニー ふしぎの国のアリスNIPPON ANIMATION ふしぎの国のアリス

ディズニー版をソースとしたイメージ

 金髪碧眼の美少女のイメージはクララ・ゼーゼマンからクラリス・ド・カリオストロ(金髪ではないが)などのようなお嬢様・お姫様のイメージとしてもてはやされ、「サクラ大戦」でもアイリス(イリス・シャトーブリアン)は勿論、グリシーヌ・ブルーメール も青い服でアリスのイメージを乗せている。
 ちなみにこれらのキャラは全員、イギリス人ではない。

 ディズニーでほぼ確立したアリスのデザインは、典型的なお人形のデザインとしても人気があり、いろんな場所で、繰り返しイメージの強化が行われている。
 また新たに作られた絵本でも、もはやディズニー版のイメージを崩すことは困難だろう。
 こうなると、イメージを壊すにしても既に「ディズニー版デザインを知っていることを前提として壊す」ということになり、それはそれでディズニー版のイメージが強化されることになる。

参考:POP WORLD ふしぎの国のアリス :ぽっぷ,はやの みちよ | ポプラ社

性格要素

冒険するヒロイン

 当時、物語の主人公と言えば少年が定番であったし、それは冒険するヒロインが珍しくない今でも定番の位置を占めている。
 そして少女はどうであったか、シンデレラは魔法使いと王子に、赤ずきんは猟師に、童話の中の主人公は常に「助けられる女の子」であった。
 しかし、アリスは積極的にウサギを追って穴に飛び込み、理不尽な連中に文句をつけ、弱きを助け、あまつさえ世界そのものを変えてしまう。

生意気

 大人の欺瞞・虚飾を暴く子供の代表。同じようなキャラには「星の王子様」がいるが、星の王子様が静かに物思いに耽るのに比べると、アリスは断然過激で暴力的だ。
 ウーマンリブのイコンとしてもアリスは取り上げられることが多い。

変身

 アリスは茸を食べたりして、体が変形したり巨大化・小人化したりする。
 このへんからアイディアを思いついたと思われる「ふしぎのメルモ」などをはじめとする「変身美少女の元祖」とも言えるのがアリスだ(とはいえ、大きくなったり小さくなったりするのはあまりメジャーではなく、「シンデレラ」のようなコスチュームチェンジのほうが人気だ)

ジャイアンティス

 巨大美女ジャイアンティス(giantis)はアメリカでは非常にウケる要素で、ことあるごとにただ女性がデカくなるだけの(エロ)映画が作られている。日本では、主役となるとあろひろし「MORUMO 1/10」ぐらいしか思いつかない(とか思ってたら「超弩級少女4946」というウルトラマン並みのヒロインが出た)。ロボでよければ「マジンガーZ」アフロダイA・ビューナスA、「ARIEL」あたり。
超時空要塞マクロス」シリーズは、ゼントラーディー(メルトランディー)という巨人族がいるので、ミリアやクランなどの巨人ヒロインが存在する稀有なシリーズとなっている。
 逆に主人公男性が小さくなって相対的にヒロインが巨大になるパターンは、覗き趣味的な人気もあり、比較的良く目にする。
 シチュエーションとして巨大化することは、ギャグ的に「巨大化して怪獣を倒すんだ!!」みたいなことで、ちょくちょく見かける。「新世紀エヴァンゲリオン」では綾波レイが、ギャグではなく巨大化した形で現れる。
マクロスプラスシャロン・アップルや「OVERMANキングゲイナー」ミイヤのようにイメージ映像やホログラフ投影などで巨大な姿に描かれることは非常に多く。現実でも巨大スクリーンで巨大美少女を目にすることは珍しくない。富野由悠季監督は、OPやEDに巨大な女性のイメージを描くことが多い。

参考:巨大娘 - Wikipedia

小人

 逆に小人萌えは日本でも受け入れられ、たとえば「HAND MAID メイ」や「一撃殺虫!!ホイホイさん」「ちょびっツ」すもも、琴子などのモバイルPCなんかは、小さなロボット。「モスラ」の小美人の双子などサブキャラにも多く存在し、エピソードとして「ああっ女神さまっ 小っちゃいって事は便利だねっ」のようにヒロインが小さくなることも少なくない。また「聖戦士ダンバイン」チャム・ファウや「絶対無敵ライジンオー」ファルゼブ、「メルクリウスプリティ」「瓶詰妖精」のような妖精も人気の有る萌え要素だ。「とんがり帽子のメモル」、「しゅごキャラ!」ラン・スゥ・ミキたち,「BLASSREITER」エレアのようなキャラも妖精の一種と言っていいだろう。
 虫の擬人化「ミクロイドS」アゲハ、「みなしごハッチ」アーヤなどをはじめ、多くの擬娘化キャラは、手のひらに乗るほど小さいのが定番だ。
 また、フィギュアはこの小人趣味の具現化でもある。

まとめ

不思議の国のアリス」は、漫画(ライトノベル)でありTRPGリプレイであリ、最も有名なパロディ元作品である。
 アリスのコスチュームは萌えメイド服の原型であり、コスプレ服の走りである。
 そしてアリスはイギリス少女のステロタイプであり、ロリコンキャラであり、変身美少女であり、ちょっとわがままな冒険少女でもある。
 これからも、美少女の代名詞としてアリスはあり続けることだろう。